私が目にした中で最も衝撃的だったことは、アン・エステル師は伝道したという理由で、頻繁に拷問を受けたことでした。彼女の身体で丈夫なところは一つもなく、座ることもできないほどの激痛の中にありながら、キリストの福音を語り伝えました。それでも彼女は、拷問を恐れることなく、絶えず祈り、刑務所内の一人一人にキリストの福音を大胆に宣べ伝え続けていました。伝道の実は一人か二人という少数でしたが、それでも彼女は、絶えず祈り伝道し続けました。そういう中、受刑者たちはアン師を白い目で見るようになり、刑務所内の至るところで、彼女の悪い噂が流れました。私はアン師の身に危険が及ぶことを感じ、密かに彼女に近づいて、「アン姉妹、今は状況が悪いので伝道するのをやめてほしい、このままだとあなたが殺されてしまいます。気をつけて下さい。」と言いました。
彼女は逆に私に、「落胆せず、最後まで忍耐すれば、主イエスは必ず私たちを守って救って下さるんだよ。」と励ましてくれました。互いに両手を握り、賛美歌のコーラス部分「恐れるな、強くあれ、雄々しくあれ、落胆し失望してはならない、主が共にいる」を賛美しました。アン師は暴力と残酷な拷問を受けながらも、神様にいつも祈り、肉の思いに勝利を獲得していました。そして神への賛美を捧げることを諦めず、信仰に生きていました。その後彼女は、「クリスチャンスパイ」という理由で、生きて出所できないと言われる、政治犯収容所に移送されました。アン師の肉体には壮絶な痛みと苦しみがありましたが、彼女の心はキリストの愛で満たされ、だれも彼女の信仰を奪うことはできませんでした。
私たちには今、祈ることができる自由を与えられていることに、感謝しなければなりません。アン・エステル師は、今の時代のクリスチャンたちが、たとえ苦しく厳しい環境の中におかれようとも、信仰によって生きることを教えてくれます。主だけを信じ生きること、確固たる信念と志をもって生きることです。そのような生き方は21世紀のパウロのようで、真実なクリスチャンの鏡です。
彼女の信仰は死をも恐れず、大胆に福音を宣べ伝える揺るぎないものです。そのような信仰こそ、クリスチャンに受け継がれていくべきものです。私の信仰は、このような刑務所内での苦難を通し、そしてアン・エステル師との出会いによる祝福によって成長しました。そして、私はいつも共にいてくださる神様を経験する恵みを、知るようになりました。苦難は私にとって益となりました。
「わたしは思う。今のこの時の苦しみは、やがてわたしたちに現されようとする栄光に比べると、言うに足りない。」
(ローマ8・18)
私はこの真理を通し、苦難の中でも働いてくださる主を賛美します。主は本当に小さなうめきにも応えてくださり、私は主の憐れみによって、懲役刑が2年減刑され釈放されることになりました。
このように北朝鮮国家は、私たちクリスチャンにイエスを信じる理由だけで、あらゆる迫害を加えています。北朝鮮は今、21世紀にたったひとつしかない分断国家であり、国民は共産国家という偶像を拝することが強いられています。私は、北朝鮮同胞の苦しみを世界に知らせるとともに、同胞にキリストの福音が宣べ伝えられることを願っています。そして、北朝鮮国民が自由に祈ることを許される日が訪れることを、神様に切に祈りを求めています。イエス・キリストの十字架で流された御血は、私たち罪人を救い、永遠の命を与えて下さる愛のしるしです。イエス・キリストだけが、私たちの永遠の道であり、真理であり、いのちです。
「彼らは二度と、その偶像や忌まわしいもの、またあらゆるそむきの罪によって身を汚さない。私は、彼らがかつて罪を犯した、その滞在地から彼らを救い、彼らをきよめる。彼らはわたしの民となり、わたしは彼らの神となる。」(エゼキエル37・23)
神様は北朝鮮を回復させるために、私のような脱北民たちを呼び集めて下さっています。信仰によって兄弟姉妹とつながり、北朝鮮の偶像が崩壊し、キリストの福音が同胞を救ってくださることを信じています。私は真の生命である福音を、北朝鮮同胞に伝えるため備えられた者として、福音を宣べ伝えるキリストの兵士として生きることを決心しました。
ところで、キム・スビン姉妹の証しはここまでですが、私たちはこのような生きた証を聞き、どのような思いになるでしょうか。
神を認めない分断国家である北朝鮮では、母子が今なお南北に引き裂かれています。キム・スビン姉妹は愛おしい我が子たちの面影を胸に抱きつつ、主に仕える兵士として、各地で用いられています。しかし、母として我が子たちを思わない日は、1日たりともありません。時には涙に濡れる夜もあります。自分は脱北し自由に生き、物にあふれ、豊かな国に身を置いています。しかし一方では、真逆の社会に生きる我が子を思うと、胸が張り裂けるようです。
それでもスビン姉妹は、どんな時にも主を愛し感謝を捧げることを忘れず、讃美歌を口ずさんでいます。信仰の勇者であるアン・エステル師からの信仰を受け継ぎ、イエス・キリストとともに前だけを見据えて生きています。その強さと、時おり彼女の輝く笑顔を見つめると、これを生ける神のみわざと呼ぶ以外に、人は何と言えるでしょうか。
神がこのような迫害を許されている背景には、神の意図があります。それは先ず第一に、神は生きておられる現実を知らせることです。そして第二に、神に忠実にお従いする者に、神は真実に応答くださる方であることを知らせることです。では、私たちはどのように応答するものでしょうか。私たちは苦難にある人々を思い、祈り、支援することができます。
(つづく)
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