イ・ミギョンは生きるために脱北し、中国で悪徳ブローカーに騙され、売られていました。そんな彼女を助けてくれたのは、借金までしてミギョンを買い取ってくれた、心優しい中国朝鮮族の青年でした。その青年とささやかな家庭を築き、ミギョンは韓国で穏やかな暮らしを手に入れました。優しい夫に、かわいいふたりの子どもたち、暮らしは楽ではないけれど、申し分ないほどの幸せの筈でした。北朝鮮にいた頃よりも自由で、食べることにも困らず、何不自由ないのに、ミギョンの心は悲鳴を上げていました。故郷に残してきた、母と姉や弟のことが四六時中、頭から離れません。ミギョンは家事と育児をこなしながら、一生懸命働き、その賃金をブローカーに託し、せめてもの家族に送金していました。
それでも、彼女は食事をしていても、今日母や姉弟たちは何か食べることができたのだろうか、そう思うと食事も喉を通りません。北の空に向かっては、皆は無事でいるのだろうか、そして、母を残した親不孝な私を、姉や弟は恨んでいないだろうかと語りかけます。自分が幸せであればあるほど、北朝鮮で今も苦労している家族の姿が鮮明に焼きついて離れないのです。脱北者たちは韓国で新しい暮らしを手に入れ、順風満帆な生活を送ると思われがちですが、実はそうではありません。彼らの多くが家族を残してきた罪悪感に苛まれ、今までと生きる世界が余りにも違うので、戸惑いを隠せずにいます。これまでの過酷な環境から、いきなり自由社会に放り込まれ、適応していくことに苦しみ、やがては精神状態をきたす脱北者たちも大勢います。北で長年に渡り、自由と人権を奪い続けた独裁の鎖が、もうここで解き放たれてもいい筈なのに、南でその残像という鎖に捕らわれています。どうすれば本当に解放されるのだろうか、その答えを探しにミギョンは教会を訪れました。
ミギョンが中国にいた頃、姑が彼女を教会に連れて行ってくれていました。教会はとても懐かしく、魂が飢え渇いていた彼女はすぐにイエス様に引き寄せられました。長い間、さまよい続けた娘がようやく父のもとに帰ったように、ミギョンはイエス様に我が身を委ねる決心をしました。これまで、あらゆる重荷と鎖で縛られていたミギョンは、イエス・キリストによって全ての罪も痛みも洗い流され、今まで経験したことのない新しい自由を受けたのです。悩み多き平凡な女性だったミギョンは、神からの新たな使命を受け、前進し始めました。彼女は恐れることなく、北にいる母と姉、弟と繋がることができるようになりました。そのおかげで食べ物や衣類、あらゆる物を家族に送ることができ、そして、家族の救いの為にも、諦めずに祈り続けました。ミギョンの母、姉、弟も通話を通じて、イエス様を救い主として受け入れ、3人の心にも聖霊様が共におられるようになりました。
数日前、北の母がブローカーの助けを借りて電話をし、彼女たちは40分近く保衛部の目を掻い潜り話しました。その母娘の会話には何の悲痛さも見られず、お互いの健康を気遣うところから始まり、家族の近況、市場やコロナ肺炎のニュース、そして最後はお互いの祈りの課題などを交わしていました。それは、南北に引き裂かれた家族の悲痛さよりも、愛と温かさに満ちた、近くにいる家族の会話のようであり、イエスによって絆が強まった家族の姿でした。そして、彼女たちの通話を助けていたブローカーたちも、その場で福音を耳にすることができ、また共に祈る協力者にもなりました。この一家は離れながらも、家庭教会が織り成す福音統一の縮図であります。
南北分断から70年、これまで掲げられてきた朝鮮半島の平和統一は、政治的手段に利用されたに過ぎませんでした。それゆえに北と南に掛ける橋は、決して届くことはありませんでした。しかし、北と南に引き裂かれた多くの家庭がイ・ミギョン一家のように、それぞれ38度線を越え、密かに家族の絆を紡ぎ続けています。蓋を開ければ、そこには無数の家族たちが南北統一をしていることになり、つまり家族の絆が南北統一の先駆けとなるのです。そして、その家族の愛の帯を強めてくれるのは、創造主なるイエス・キリストであります。イエス・キリストだけが、国家権力によって引き裂かれた家族を、また、自由で恵まれた社会にいながらも殺伐とし、崩壊した家族たちを建て直すことができる方であります。
現在、韓国で暮らす脱北民は33,658人(2020年3月末調査)とされていますが、その一人ひとりは、ただ逃げて、たどり着いたゆえに今、この大韓民国にいるのではありません。祖国から離れた理由がどうであれ、脱北者全員は神からの偉大なる使命を担う役割があり、その為に選ばれたのです。かつて多くのキリスト者を生み出した北朝鮮は、国家自体がまさしくキリストの花嫁でした。1945年に金日成が実権を握ってから、現在に至るまで、厳しい迫害がキリストと花嫁の愛を裂こうとしました。けれども神は今、花嫁の血を受け継ぐ者たちを動かし、彼らを通して朝鮮半島全土に再び、神の愛の種子を蒔いているのです。生命がけの脱北から、今この大地に立っているのは、神の偉大なるご計画が成就するために、その一人一人はなくてはならない存在です。そして、それは私たち全てにも当てはまります。誰にでも神の御手の中で、自分だけができる使命がきっとあるのです。
「あなたがわたしを選んだのではありません。わたしがあなたを選び、あなたを任命したのです。それは、あなたが行って実を結び、そのあなたがたの実が残るためであり、…」(ヨハネ15・16)
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