中国で人身売買によって売られた私、キム・チヨンは、父の病気の遺伝で生まれつき顔に歪みがあるにも関わらず、ある一家に買い取られました。脱北女性たちが中国でブローカーに騙され、風俗に売り飛ばされる者もいれば、私のように漢民族の嫁として売られることがよくあります。その多くが「嫁ぎ先」で、奴隷のようにこき使われ、虐げられています。ある女性は買い取られた家から隙を見て逃げ出したものの、途中で見つかって連れ戻され、裸にされ、死ぬほど殴る蹴るの折檻を受けました。ところが私の場合、優しい義父母や夫、子どもにも恵まれ、初めて家族に囲まれ、ずっと孤独だった私は、貧しいながらもそれなりに幸せに暮らしていました。
でも、中国当局は脱北者を難民と認めていないので、いくら中国に家族がいても、私は不法滞在者であり、北朝鮮では私は祖国を棄てた反逆者でしかないのです。中国当局が私を見つけたら、私は北朝鮮へ即強制送還となり、それは死を意味します。今の私は祖国で飢えに苦しみながら、生き長らえることさえ許されないのです。結局、私は今も居場所が無く、物乞いをしていた幼い頃と実際は何の変わりもないということでした。孤独から救われた私の幸せは、湖に張る薄氷の上に立っているように、いつか割れて、冷たい湖に呑まれてしまう、そんな感覚に囚われていました。
脱北を果たし、今は韓国に定住している叔母からある日連絡が来ました。叔母のように私も何も怯えることなく、暮らせることができたらどんなにいいか…いくら自分には安全な場所が必要とはいえ、夫と子どもを残して行くことなんてできない、そう思っていました。ところが、夫はこのままでは妻の生命を守ることができないと感じたのか、私を家から出し、韓国へ行かせることを決めました。私は随分ためらい、まだ幼く、可愛い盛りの愛しい息子と別れることは身が裂かれる思いでした。けれども、夫の決心は固く、夫は私のために多額の逃走資金を工面しました。そして、私を東南アジアの国境まで連れて行き、ブローカーに大金と共に私を託したのです。貧しいながらも、私を守るために大金を作り、私がいなくなったあと、まだ幼い子を一人で育てていかなければならないというのに、買い取った妻を自由にするという、夫の静かでありながら深い愛に言葉もありませんでした。愛するあなた、私たちの結婚生活のはじまりは普通と違っていても、私はあなたの妻になれて、本当に幸せでした。不器用なあなただったけど、精いっぱいの愛で、綺麗でもないこの私を愛してくれてありがとう…と声にならない思いが溢れました。今度いつ会えるかわからない夫の顔が、涙で曇ってよく見えませんでした。そして、私は一人大韓民国へ渡りました。
豊かで自由な国、韓国で私は市民権を獲得し、もう怯えて暮らさなくてもいいのに、それでも心が痛んで仕方ありませんでした。思い出すのは夫のこと、愛しい我が子、そして故郷北朝鮮に一人残した母のことばかりでした。そんな時、私はイエス・キリストに出会いました。父なる神は私がこの世に生まれる前から、既に私を選んで愛して下さり、そして、私の罪のために尊い御子イエス・キリストを十字架に捧げて下さったことを知りました。その父なる神の愛が、私には母や夫の愛と少し重なりました。私の生命を守るため、あのとき北朝鮮の刑務所で憎まれ役を飼って出てくれたお母さん、優しさゆえに黙って私との別れを選んだあなた。
この二人の愛さえこんなに大きいというのに、天のお父様が一人子を私のために捧げて下さったその愛は、それよりも勝るのです。私はこんなにも愛されていたのだ、主イエス様は、まるで私の他にこの世で気にかける存在がいないかのように、私のことを気にかけて下さっていました。私はずっと一人だと思っていたけど、実はいつだって一人ではなかったのだと気付かされました。神の子として歩み始めた私に、神様は溢れるばかりの恵みを注いで下さいました。私は中国にいる夫と息子を韓国に呼び寄せることができ、私たちは家族として再生することができました。その後、二人の息子を授かり、5人家族となりました。さらに、私は多くの人々の祈りに支えられ、神経線維腫の顔面手術を受けることができ、ただ感謝するしかありませんでした。
イエス様を知った喜びに溢れ、感謝しながら祈っていた時、私の脳裏に一つの記憶が蘇りました。それは子どもの頃、祖母が密かに祈りを捧げていた姿でした。キリスト教徒への迫害が厳しい北朝鮮で、祖母は祈りをもって信仰を貫いていたのです。誰かが救われる背後には、必ずその救いのために祈りが捧げられているといいます。私は祖母の祈りによって、自分はキリストに出会い、ここまで生きてきたことを語られました。そして、今度は自分が母や隣人たちを助けるために祈り、呼ばれたのです。私は北朝鮮にいる母を探し始め、神様はその奇跡の糸を繋いでくれたように、母と通話を通して引き合わせてくれました。私は母に補聴器を買うためのお金と食料を送り、イエス様の愛を伝えています。私は幼い頃、食べる物も寝る場所もなく 国籍さえありませんでした。けれども、主はこんな小さな私を生まれる前から愛して下さり、ご自分の子どもにしようと定めておられたのです。
「神は、ただみこころのままに、私たちをイエス・キリストによってご自分の子にしようと、愛をもってあらかじめ定めておられたのです。」(エペソ1:5)
物乞いから神の王女とするために、イエス様はさまよっていた私を探し続け、見つけ出して下さいました。私は王なる神の娘なのです。
(名前は全て仮名です)(つづく)
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