わたしの子、強くあれ(前編)

光の法則「この国を見つめなさい」

 人は生まれ育った環境によって、人生は大きく影響されます。また乳幼児期の親との愛着形成によって、人間関係構築が左右すると言われます。しかし、キリストにあって変えられた者たちは、私たちを取り巻く環境がどのようなものでも、生まれる前から神に計画の内にあります。神の御手の中で生かされ、負の連鎖を断ち切ることができます。また、私たちのアイデンティティは、誰かの子どもである前に、創造主である天のお父様に愛され、尊い神の子どもであると聖書は語っています。

「神はみむねと御心のままに、私たちをイエス・キリストによってご自分の子にしようと、愛をもってあらかじめ定めておられました。」 (エペソ人への手紙1章5節)

 今月号と次号は、母の愛を慕い求めて心傷ついた少女のたましいが、人々に踏まれ、痛め続けられましたが、環境の呪縛に勝利し、美しく強く変えられた神の娘の姿をお届けします。

お母さんが微笑んでくれたら

現在33歳のカン・ソヨンは、北朝鮮最高峰の白頭山麓の最も深い山奥の村、三水甲山で生まれました。ソヨンの両親は裕福な家庭で生まれ育ち、父はサッカー選手で、母はダンサーという経歴でした。しかし、父母の両親が「過ち」を犯した結果、有望であった将来が断たれ、夢を諦めざるを得ませんでした。そんな二人が出会い、互いの同じ痛みを分かち合い、支え合いながら逞しく生きていました。父は骨身を削りながら忠実に働き、国営農場の模範的農夫となり、一家を支えていました。やがて、ソヨンが生まれ、両親にとって一番幸せな時でした。しかし、整った顔立ちで、仕事がよくできた父は、既婚者でしたが、常に田舎の女性たちから注目の的でした。そんな父が誘惑に負け別の女性と過ちを犯し、小さな田舎ではこの不倫関係が、瞬く間に噂となり広がりました。深く傷つけられた母は、父に怒りを向け、また、その怒りの矛先は、幼いソヨンにまで向けられました。父は一人娘であるソヨンを本当に愛し、その愛情を一身に受けて、可愛がられている娘を見ていると、母は苛立ちを隠せず、また父に似ている娘が疎ましい存在でしかありませんでした。幸せだった家庭に歪みが入り、最愛の母から冷遇されていたソヨンは、いつか母が自分に微笑みを浮かべ、優しく抱き締めてくれる日を思い描いていました。自分に背中を向けたままでいる母に、何も訴えることなく、幼い心はひたすら寂しさに耐え続けました。

15歳の小さな主婦

それから数年後、父は自分の過ちを後悔し、両親の関係は回復の兆しを見せました。そしてソヨンに10才年下の弟が生まれました。新しいいのちは、壊れかけた家族の絆を強く結んでくれましたが、一家が新たな希望を持って踏み出した矢先、大量餓死はこの家族も容赦なく襲いました。どんなに働いても、家族は決して飢えから抜け出すことができませんでした。父の精神は限界に達し、母も再び希望を閉ざしてしまいました。両親は社会を恨みながら、ある日薬を過剰服用し心中を図りました。父は一命を取り止めたものの、母は帰らぬ人となりました。自分と幼い弟を残し生命を絶とうとした両親に、ソヨンの心は再び傷つきました。15歳だった彼女は、いなくなった母の代わりに働き家計を支えました。主婦としても家事や弟の育児に追われ、学校にも行けず、嘆き悲しんでいる暇さえありませんでした。彼女は痛んだ自分の心を紛らわすかのように、父と弟を餓死から守ろうと懸命に働き続けました。ソヨンは17歳の時、この苦しい暮らしを少しでも変えようと、彼女は軍隊に入ることを考えました。  けれども、父はソヨンの入隊を断固として反対しました。いくら生活に困窮しても、まだ17歳で若い愛する娘が、軍隊でどのような扱いを受けるかと思うと、父は居ても立っても居られませんでした。また、父は母を一人で死なせて自分は生き残り自責の念に駆られ、もう家族の誰も死なせる訳にはいかないと心に誓いました。

暗黒の海原で

北朝鮮の偉大な指導者

軍隊に入隊することを父から反対されたソヨンは、別の方法で一家を飢えから守ろうと考えました。そんな時、彼女は中国に渡れば食べ物にありつけ、お金を稼ぐことができると知りました。そこでソヨンは父に内緒で、中国でお金を稼ごうと友だちと一緒に鴨緑江を渡り、中国に入りました。しかし中国で自分は食べることができても、お金を稼ぐための仕事にありつけませんでした。その上、人身売買のブローカーが売り物になる北朝鮮女性を探し回り、危険に満ちていました。彼女たちは何とかブローカーから身を隠すことができましたが、公安に見つかり、あっけなく逮捕され北朝鮮に強制送還されました。北朝鮮での飢えに苦しむ生活以上に辛い生活が、彼女たちを待っていました。ソヨンたちは強制労働鍛錬所に連行され、光も届かない暗い奈落の底に閉じ込められました。家では娘がいなくなったことで、父は血眼でソヨンを探し回り、彼女の居所を突き止めました。父は何とか娘を釈放させようと保衛部に必死に働きかけ、その甲斐があってか、ソヨンは4ヶ月で労働鍛錬所から釈放されました。  しかし、娘が釈放されて安堵した父の心をよそに、ソヨンは再び真っ暗な鴨緑江を渡り、再び中国に入りました。中国で働き口を探していた彼女は、人身売買を避けて自力で、ある家族のお手伝いとしての仕事にありつきました。ところが、この家族の老人はよこしまな男であり、ソヨンを騙して彼女を監禁しました。これは人身売買や強制婚ではなく、ただ邪悪なこの老人の企みで、若いソヨンを自分の性の捌け口とて、また労働力として酷使しようと奴隷状態にし、彼女からいっさいの自由を奪いました。ソヨンは身体を奪われ、たましいも殺されました。それは星も見えない、暗黒の海原に突然一人で放り出されようで、ただ暗闇をさまよい生きるしかありませんでした。

(名前は全て仮名) (つづく)

過去の記事

490号488号487号485号
484号483号482号481号480号479号478号
476号475号474号473号472号471号470号469号

お気軽にお問い合わせください。06-6226-1334営業時間10:00~18:00(土日・祝日除く)

メールお問い合わせ