「あなたは高価で尊い」

北朝鮮女性が脱北し、越境した中国で、悪徳ブローカーたちの罠により、人身売買で漢民族の嫁として売られることは多くあります。彼女たちは既婚者であろうとなかろうと、人権を踏みにじられ、強制結婚を強いられます。嫁とは名ばかりで、奴隷のように働かされ、暴力を振るわれ、虐げられることもあります。けれども中には、稀に心優しい男性に買われ、愛の無かった結婚生活が次第に変化していくこともあります。いずれにせよ、これらの結婚生活の中で、彼女たちは不本意ながらも、中国人の夫の子どもを産みます。複雑な事情のもと、苦難を背負うであろう小さないのちたちに、天のお父様は特別な計画を持っておられます。一人ひとりは神によって大切に造られた作品です。「あなたは高価で、尊い。」とささやきながら―。

家族が一緒なら

キム・ジス(21才)の故郷は、中国東北地方にある小さな町でした。中国人の父は善良な人柄で、北朝鮮人の母は働き者でした。毎日働き通しの忙しい母に代わり、幼いジスの面倒を見てくれたのは、12年離れた姉でした。よく一緒に遊んでくれた姉は優しく、顔立ちも美しく、ジスにとっては自慢の姉でした。父と姉は血縁関係がなく、ジスとは異父姉妹であり、姉は13才の時、母を頼って北朝鮮から中国に渡ってきました。ジスの父は姉を大切にし、中国の学校へ通わせました。母と姉が密かに背負っていた過酷な事情を、幼いジスはまだ知ることもなく、家族の愛を一身に受け、幸せな子ども時代を送りました。しかし、その彼女の生活にも変化が訪れました。

 ある日、母が出稼ぎへ行くと家を出たまま、なかなか帰って来ず1年が過ぎました。そして、姉も母を探しに行くと何処かへ行ったきり、帰って来なくなりました。ジスは大好きだった母と姉のいない家で、父と寂しく暮らしながら、二人の帰りを待ち続けました。父は時折、寂しそうな表情を浮かべるものの、何故か二人の帰りを待っているようではありませんでした。  しかし、二人が家を出てしばらくして、父が突然「母の所へ行こう」と言い出しました。ジスは父に連れられて飛行機に乗り、故郷中国を離れ、大韓民国までやって来ました。ソウルに到着すると、そこには懐かしい母と姉が待っていました。やっと二人に会えた嬉しさと、家族4人が揃って暮らせる喜びで溢れました。祖国を離れても、大好きな家族が一緒なら、外国であろうと何処にいても怖くはなく、幸せだと信じていたジスでした。

私は誰

大韓民国に先に到着していた母と姉は、それなりにこの国の暮らしに順応していました。特に姉は韓国芸能界にデビューし、モデルや女優へとスター階段を駆け上っていました。そんな姉とは対照的に、ジスにとってこの国は針の筵となっていきました。流暢な韓国語とその美貌で、脱北スターとして脚光を浴びていた姉の陰で、この国の言葉が分からない妹は、漢族の子として見下されていました。韓国人でも北朝鮮人でもなく、脱北者でもない、半分だけ中国人の血が流れている私は、一体誰だろうと自問自答し、自分のアイデンティティが混乱するようになりました。中国で明るく活発だった姿は息を潜め、ジスは次第に萎縮するようになり、生き辛さを感じるようになりました。ジスは脱北者たちが通う代案学校(フリースクールのような私立学校)での寮生活を送り、そこで韓国語を学びましたが、学校生活に馴染むことができませんでした。しかし彼女は持ち前の頑張り屋で、中学課程まで終えてからキリスト教代案学校高等課へ進学しました。

「高価で尊い、わたしの娘よ」

母と姉はイエス・キリストと共に生きる人生を送っていたので、毎週、脱北者教会に通い、ジスも教会へ連れて行かれました。二人は韓国に来てからのジスを不憫に思い、切ない思いで彼女を見守っていました。以前から変わらぬ愛を注いでいた姉は、妹のためにひたすら祈り続けました。ジスは代案学校や教会へ行く度に、神様からの慰めを受けていたものの、依然として劣等感と孤独に苛まれていました。そんな時、教会のメッセージを通して、天の父なる神様のうちに、自分のアイデンティティと存在の意味を探すようになりました。父なる神様はジスを愛するあまり、ひとり子イエス様を送って下さり、イエス様は生命をかけてジスを愛し、十字架にかかって下さいました。天のお父様は彼女に「ジス、愛しい娘よ。高価で尊い、わたしの娘よ。」と語ってくれたようでした。ジスは1対1の弟子訓練を通じて、イエス様を心に迎える決心をし、その日からイエス様と共に生きる彼女の新しい人生が始まりました。いつも姉の陰に隠れて生きていたジスが、教会で賛美チームの一員となり、喜びを持って高らかに賛美する姿は、眩しいほどに輝いていました。

板門店

神の栄光を輝かせる主人公

これまで自分のアイデンティティに迷い続けた彼女に、神様は天のビジョンを示されました。神の良き知らせは、北朝鮮、中国大陸から、やがて地の果てまで語られ、神の国が成される偉大な計画のために、先ずは母が北朝鮮から中国へ呼び寄せられました。そして、自分はその種子として生まれ、福音の力で、滅びゆくたましいたちに生命を吹き込む使命があることに目覚めました。彼女は神からの召命を受け、伝道者となるべく、ビジョンスクール(宣教師を輩出するための訓練学校)での学びを経て、某国へ宣教師として数日後に旅立ちました。  この世で自分は誰なのか、自分はどういう存在なのか、分からなくても、天のお父様だけが、私たちは誰なのか、真実の答えをご存じです。それは「あなたはわたしの愛する子だ」と―。そして、一人ひとりの子どもたちがそれぞれの人生において、他の誰でもない、その人しかできない使命が必ずあります。神からの使命という名のそれぞれの舞台の上で、私たちは誰しも、神の栄光を輝かせる主人公です。

これはわたしの愛する子。わたしはこれを喜ぶ。

(マタイ 3:17)

(名前は全て仮名)(つづく)

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