輝ける自由の翼

「北朝鮮からの叫び」は2018年1月から始まり、今月で連載100回を迎えることになりました。8年前の第1回目の連載当初、北朝鮮人口2500万人に対して、国内では推定約45万人のキリスト者がいるとされていました。独裁政権により、国民からあらゆる自由を奪うこの国であっても、多くのたましいたちが既に、真の自由を知っていました。たとえ、人々の体を縛っても、その心まで縛ることは誰にもできません。また、どんなに自由な環境下に置かれても、あらゆるものから束縛されているたましいたちが、この世界には、いかに多いことでしょうか。今月号は、キリストの内にある真の自由に出会った兄弟の生きた証をここにお届けします。

全てを手にする男

還暦を迎えようとしているイ・ジョンスの心は、大韓民国に来てから、より多くの見えない鎖に縛られ、不自由となりました。北朝鮮で生まれ育ったジョンスは、国家に忠実な両親のおかげで、党から多くの恩恵を受け、一家は裕福に暮らしていました。彼は幼い頃から文武両道に通じ、高級中学校卒業後、18歳で軍に入隊しました。兵役期間の10年を経て除隊後、彼は朝鮮労働党に入党し、30代の若さで党幹部に抜擢されました。そんな彼にふさわしく、聡明で美しく、申し分のない女性を妻として迎えました。安定した豊かな結婚生活が始まり、ふたりの間に一男一女が生まれました。この政権下においても、ジョンスは幸せな家庭と成功を手に入れ、何一つ不自由なく、これからもそんな人生が続くと彼は信じて疑いませんでした。

家族が再び一つとなるために

 1990年代を生きた全ての北朝鮮人たちにとって、彼らの人生を大きく揺るがした出来事は、「苦難の行軍」と呼ばれる大量餓死でした。この大量餓死は特権階級であったジョンス一家も例外なく、全国民から全てのものを嵐のように、根こそぎ奪い去っていきました。国境地帯の村が出身地である妻は、実家に助けを求めましたが、実家でも状況は変わりませんでした。妻は思い切って、食糧調達のために中国まで足を延ばし、豆満江を渡りました。しかし、彼女はすぐに人身売買の罠にかかりましたが、何とか脱出できました。しかし、このまま中国に身を置くことができず、また、家族が待つ祖国に後戻りすることもできず、結局大韓民国へ逃げるしかありませんでした。幼い子どもたちを抱え、妻の帰りを待っていたジョンスに、韓国に渡った妻からお金が届くようになりました。まだ母を恋しがる子どもたちのために、家族が再び一つとなるために、妻のもとに行こうと彼は祖国を脱出する決意をしました。12歳の長女と9歳の長男、子ども2人を連れて脱北することは、人目を引くため大変危険であり、至難の業でもありました。けれども、3人は奇跡的に脱北を成功させ、やっとの思いで韓国に入ることができました。子どもたちは母親とまた暮らせる喜びに溢れ、ジョンスも妻との再会を心待ちにしていました。自由で豊かな地に降りた瞬間、彼の本当の苦悩はここから始まりました。この時、彼は妻がこの国で別の男性のもとに嫁いでいた事実を知りました。

絶え間なく縛りつける鎖

妻の裏切りを知らされ、彼も子どもたちも、失意のどん底に沈みました。妻を追ってここまで来たのは、いったい何のためだったのか―。しかし、ここで泣いたり、恨んだりする暇はありませんでした。これからは男手一つで、異国の地で子どもたちを育てるしかありません。かつてのプライドや過去の栄光を捨て、肉体労働や極端に賃金が安い労働であっても、彼はなりふり構わず泥だらけになり、全ては子どもたちのために奔走し続けました。やがて、成人した娘は自営業を営み、息子は名門大学卒業後留学しました。そんな子どもたちは大きくなると、母親のもとへ行き、彼は再び絶望と孤独の淵へと追いやられました。また、彼は交通事故によっても苦しめられ、絶え間なく彼を縛りつける苦悩の鎖に疲弊し、生きることに無気力になっていきました。天のお父様は、ジョンスに真の慰めが必要であることをご存知であり、彼のためにひとりのしもべを遣わしました。

輝ける自由の翼

ジョンスはそんな時、北朝鮮の幼馴染に思いがけず再会しました。その幼馴染はイエス・キリストを信じ、宣教師として献身していました。ジョンスは彼にこれまでの苦しい胸の内を明かし、彼はジョンスに天にある本当の慰めと、イエス・キリストを通しての真実の自由について語りました。ジョンスは苦悩だけでなく、怒りや苦々しさという罪の鎖にも縛られ、彼の心は完全に自由を失っていました。しかし、それらの罪の鎖はキリストの十字架によって断ち切られ、十字架の愛によって、彼は自分の全ての罪は赦されたことを知りました。罪を犯し続けた自分が赦されたのなら、どうしてこの自分は、他の誰かを赦さずにいられようか―その新たな気付きは、ジョンスから全ての鎖を解き放ち、彼を自由にしました。彼はイエス様と出会い、完全な自由を得て、偉大なる創造主の御手にこれからの人生を委ねることにしました。ジョンスは現在、教会の脱北者支援の中心的な働きを担いながら、北の故郷に残してきた家族たちに、福音を伝え、彼らの生活も支援をしています。

 たとえ、体は不自由な中に置かれても、北朝鮮の聖徒たちのたましいには、いつも神の御手という大空の下で羽ばたく自由の翼があります。冒頭で述べたように、連載が始まって8年、これまで尊い証を分かち合って下さった全ての脱北者の皆様の働き、そして読者の皆様の祈りがあってこそ、45万人の聖徒たちが広げる自由の翼は今、もっと神の栄光を輝かせているのではないでしょうか。

北朝鮮と中国の間を流れる川、鴨緑江の石碑

被造物自体も、滅びの束縛から解放され、神の子どもたちの栄光の自由の中に入れられます。(ローマ8:21)

 (名前は全て仮名)(つづく)

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