神を知る旅(前編)
天のお父様は、神の御姿に似せて造られた私たち被造物に、何を願っておられるでしょうか。それは、私たちが心でイエス様を信じ、口で告白して救われる(ローマ10:9~10)という事さえすれば、主の全ての望みにかなったことになるでしょうか。また、一生懸命、主のために奉仕し、良い行いをすることだけを、いつも神様は願っておられるでしょうか。もちろん、どちらも大変重要なことですが、私たちが救いを受けたらそれで終わりではなく、また、奉仕や良い行いをすることだけが、主の願いにかなったことではありません。私たちが救われた瞬間をスタートとして、イエス様と目を合わせながら、私たちが日々、神と生きた愛の関係を結び、そして、私たちに神御自身をもっと知って欲しいと、天のお父様は願っておられます。
このストーリーの主人公は、イエス・キリストを信じながら、その働きのために自らの生命を賭けてきました。しかし、彼は未だ神御自身と出会ってはいません。神様を個人的に知る彼の旅は今、始まったばかりです。

北朝鮮に旅立つ在日朝鮮人
今、後悔する未来への選択
現在、57歳になったハン・ドンヒョクが北朝鮮を出て、33年が経ちました。平壌で生まれたドンヒョクでしたが、彼の家系のルーツは北朝鮮ではありませんでした。ドンヒョクの父は、大韓民国政府設立(1948年樹立)前のソウルで生まれました。その後、祖父は一家を伴ってソウルから日本へ渡り、在日朝鮮人として差別や偏見の中で苦労しながら、ドンヒョクの父を日本で育て上げました。父は幼い頃から必死で勉学に励み、家計を助け、やがて日本で事業を展開するという才覚を発揮させました。ちょうどその頃、朝鮮戦争後、北朝鮮政府は国内の労働力不足を補うために、在日朝鮮人たちに祖国への帰国を呼びかけました。これが、在日朝鮮人を北朝鮮に永住帰国させるという国家事業の幕開けとなり、この帰還事業は1959年から1984年まで続きました。北朝鮮に移住すると、一生豊かな暮らしを保証される「地上の楽園」という虚偽のプロパガンダを北朝鮮政府は朝鮮総連と共に謳い、その結果、約9万3000人(日本人妻含む)の在日朝鮮人が北朝鮮へと渡りました。
日本では差別だけでなく、国民健康保険や国民年金も加入できず、制度的にも排除され、苦境に追いやられていた彼らにとって、日本に居場所はありませんでした。それゆえに、今やユートピアである自分たちの真の祖国に憧れを抱き、帰国することは、彼らにとって当然の選択でした。日本で事業が上手くいっていたドンヒョクの父でさえ、北朝鮮に対する思い入れが強くなっていきました。父は祖父に対して、何故、自分たち家族までも日本に連れて来て、異国の地で苦労させるような選択をしたのか理解ができずにいました。そして、父はそんな祖父に反骨するかのように、志半ばで、在日帰国船に乗り込み、ひとり北朝鮮へ渡りました。父のこの北朝鮮帰還が、のちに生まれる彼の子や孫たちにまで影を落とし、未来の自分が後悔する選択になるとは、この時の彼には知る由もありませんでした。
真逆の楽園
北朝鮮に着いた帰還者たちを待っていたのは、目を疑うような想像を絶する光景でした。聞かされていた「地上の楽園」とは程遠く、陸に降り立つと、異臭が鼻を突き、薄汚れ、貧相な街並みの中に見えたのは、ぼろをまとった子どもたちや人々の姿でした。帰還者たちは日本から持って来たわずかな財産を没収され、劣悪な環境の田舎へと送られ、奴隷のように強制労働を強いられ、日々の最低限の食事にすらありつけませんでした。また、ある者たちは日本から来たというだけで、反逆分子としてのレッテルを貼られ、政治犯収容所へ送られ、それは日本人妻たちも例外ではありませんでした。そのような中で、ドンヒョクの父は比較的恵まれた環境下に置かれました。当時の金日成政権にとって、父のように日本で成功を修め、裕福で人脈もある人物は、利用価値がありました。彼のような人々を通じて資本主義市場へと結びつけ、外貨資金を吸い上げるために有効な人材として、彼は朝鮮労働党第39号室(外貨獲得機関、朝鮮労働党の財政経理部)に配属されました。そこで父は、金日成へ上納する資金調達の働きに動員されました。
砂上の楼閣
父は同じ在日朝鮮人帰還者の母と出会い、ふたりは平壌で結婚しました。3人の子どもたちにも恵まれ、ハン・ドンヒョクは3男1女の次男として生まれました。帰還者たちは日本へ帰ることはおろか、日本に残して来た家族や親戚に連絡を取ることさえ許されませんでした。しかし、同じ帰還者であるはずの父は、仕事で中国や東南アジア、また、ヨーロッパ経由で、日本や韓国へ自由に随時出入りするようになりました。父は北朝鮮、韓国、日本という3つの国籍を持ち、父が海外で実際に何の仕事をしていたのか、ドンヒョクたち家族は何も知りませんでした。多くの帰還者たちが、北朝鮮に来てから不幸のどん底に突き落とされたというのに、父は金日成の恩恵を受け、仕事に家庭に恵まれ、むしろ、北朝鮮に来てからの彼の人生は全てが上手くいき、帰還して良かったと心から思っていました。そして、これからも自分は、この地で成功し続けると過信していました。
ところが、彼の成功は砂上の楼閣のように、あっという間に崩れ去る事態となりました。金日成が崩御し、その息子金正日へ政権交代となりました。金正日は父親時代の人事を残酷なまでに一掃し、父親の側近を更迭しました。案の定、ドンヒョクの父もその煽りを受け、一家の生活を180度変えてしまいました。ドンヒョク一家は北側にある劣悪な環境の田舎へ強制移住させられました。
(名前は全て仮名)(つづく)
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